「浜松スタートアップ視察」連載2回は、浜松地域イノベーション推進機構と、はままつ起業家カフェの取り組みを紹介する。
浜松地域イノベーション推進機構は静岡県と浜松市、浜松商工会議所が出資し、地域のモノ作り企業や情報通信企業などの既存事業と新規事業の立ち上げを支援する。江馬正信専務理事によると、浜松の主力産業の自動車関係ビジネスを手掛ける中小企業は数百社になり、市全体の産業規模の約5割を占める。その自動車産業が好調な今こそ次の新たな成長を育てていくことが重要になる。つまり、自動車に次ぐ事業を創出するということ。
4つの重点施策がある。1つは新事業展開を支援すること。浜松地域の事業者は事業の特質から鍋などアウトドアグッズを作ったりするなど、プロダクトアウトになっていたという。そこで、デザイン思考を取り入れて、強みを生かしたビジネスを創り出すことにした。IT企業も参加し、新しいものを生み出すインキュベーションプログラムを用意し、3年間で製品化する。そのためにメンターによるアクセラプログラムもある。
2つめの施策は、中小企業の脱炭素経営を支援すること。3つめは、光・電子技術活用プロジェクトの推進だ。これら技術を産業の共通基盤技術にし、活性化を図ることで、1つがフォトンバレーセンターになる。中小企業の課題やアイデアに対して、研究者がプロジェクトを実行、支援するもので、「こんなことをしたい」となったら、大学の先生らとマッチングする。センサーを使って、トマト栽培を効率化したスタートアップなどが生まれたという。「ドイツの仕組みをまねた」と、江馬氏は明かす。
4つめは、次世代自動車産業に対応した新事業展開の支援になる。EV化が中小企業に多大な影響を及ぼすので、EVに対応する新たな部品の試作に取り組むための情報の提供や、EVの部品の分解などを体験する施設を用意し、試作づくりを支援する。
はままつ起業家カフェは、起業を目指す人のためのワンストップ相談窓口になる。浜松市と浜松地域イノベーション推進機構、浜松商工会議所らが共同で設置、運営する。この3つの組織から出向ではなく、ここに席と机がある形で常駐し、ビジネスプラン作りや融資を通るためのプラン作りなどを支援する。独立する形での起業になるので、飲食やソフト開発などの相談が多く、かつ30代、40代が一番多い多いという。次いで50代、60代で、定年近くになり、コンサルタントやソフト開発をしたいという人たちになる。女性がネールサロンを開業したいとの相談もある。浜松市産業部の小島一哲専門監によると、こうしたスモールビジネスの起業が中心で、相談件数は年1200件程度あり、年100人くらいが創業にこぎつけるという。
同起業家カフェへ参加するメリットもある。1カ月に4回以上、同カフェを使うと融資を受けやすくなる仕組みなどがある。市の融資だけではなく、金融機関や国の助成などで、相談員6人を配置する。「やりたいことが明確になっている人は起業できるケースが多い」(小島氏)。起業後の人材採用も大きな課題になる。実はトヨタ系バッテリー会社が隣町にあり、人材をどんどん採用する、いわば人材獲得ブラックホールになっており、市内の中小工場が打撃を受けているという。
江馬氏によると、浜松市は繊維から織機、オートバイ、自動車へと変革してきた。次は光やサービスになるのかもしれない。つねに新たな産業を起こしてきた浜松は、スタートアップが育つ環境を整えているのだろう。(田中克己)